私は、若い頃はプロ用の機器にあこがれて
できるだけプロ用や業務用の機材を揃えていました。
調理器具にしても、ネットワーク機器にしても、
プロ用の方が作りがしっかりしており、安定感もあります。
私たちの青春時代、パソコンで何かをしたいと思う人達は、
お絵描きする人は、EPSONのGT-6000というスキャナ、
音楽をする人は、KORGのM1という機材が垂涎の代物でした。
しばらくして、日本社会はデフレ経済に突入し、
高性能・高品質な機器はめっきり少なくなりました。
安い事が「正義」となり、壊れたら新しいものを買いなおせば良い。
いつのまにか社会は、そんな風潮になってしまいました。
これって、Wifiルータにも言える事なの?
そんな声にお応えして、
業務用のWifiルータと、普通のWifiルータの違いを
説明してみたいと思います。

業務用ルータの歴史
まず、業務用のルータって何?という事から説明します。
ルータとは何か
ルータとは、ネットワークの経路(ルート)を決める装置です。
A地点からB地点に行くには、どのような経路(ルート)を通るか決めます。
ルータが使われている多くの場所では、メタル回線から光や無線など、
異なる媒体へのインターフェース変換として使用されます。
業務用ルータは、昔は、ISDN回線(BRIやPRIなど種類があった)と、
イントラ回線と呼ばれる社内ネットワークをつなぐ装置として使用されていました。
ISDN回線は、交換機局から会社や自宅までの回線をデジタル化する一方で、
電話機などのアナログ装置の接続を残すため、DSUやTAといった様々な装置が必要でした。
交換機技術を使って、デジタルとアナログの良いところを残そうとした結果、
一般的に使用されるLANコネクタのRJ-45とは異なるコネクタ形状や信号ピンとなり、
インターフェース変換としてルータが、多くの場面で必要とされました。
アナログ回線は終息する方向に
ISDN回線は128kbpsや1.5Mbpsといった速度で、
静止画を送るにも時間がかかります。
このような低速回線ではインターネットの普及がなかなか進みません。
国は、家庭にも光ファイバを接続するFTTH(Fiver to The Home)
という目標を立て、各家庭への光ファイバ接続を進めました。
もちろん、仕事で使用するネットワークも
光ファイバを使った回線に移行していきます。
この頃、NTTは光回線のサービスへ移行する上で、
交換機技術を使ったアナログ回線の提供をやめました。
これにより、回線速度は飛躍的に向上し、
提供回線のユーザ側コネクタもRJ-45に統一されました。
サービス提供されるコネクタ形状がRJ-45、信号ピンも統一されたことで、
インタフェース変換を目的とした業務用ルータの多くは世の中から姿を消しました。
L3スイッチの出現
インターフェース変換をする機器が不要になり、
インターネットの世界は、高速大容量の通信の世界になりました。
ルータのようにソフトウェアでパケット処理をしていると、
伝送遅延は大きくなってしまいます。
高速に大容量のパケットを処理するためには、
ソフトウェア処理ではなく、ハードウェア処理が必要になりました。
そこで、ルータに代わり登場したのがL3SW(レイヤ3スイッチ)です。
L3SWの普及に伴い、業務用ルータが使われる事は激減しました。
業務用のWifiルータの特徴
次に業務用のWifiルータについて説明します。
安定性が求められる
ビジネスでWifi(無線LAN)に求められるもの、
それは、高速で安定した通信環境です。
Wifiを始めとする無線通信は、特定の周波数の電波を使っており、
同時に電波を出せるのは1台の装置だけなのはご存じでしょうか?
トランシーバは、同時に電波を出せるのは1台だけですよね。
意図せず、同時に電波を出してしまうと何を言っているか分からなくなります。
また、LAN自体が帯域を確保しない通信です。
一方的に電波を使用する装置があれば、他の装置は電波を使えません。
結果として、まともに通信することはできません。
通信が衝突しないようにIEEE802.11から、a、b、g、n、ac、axと
進化してきたWifiですが、その歴史は伝送速度の向上と、
通信の衝突回避の歴史でもあります。
業務用ルータは、MIMO技術を導入し複数のアンテナを使った回線速度の向上や、
ビームフォーミングを使った電波状態の安定化を行います。
高いセキュリティが求められる
無線は空間を自由に飛び回ることができます。
有線回線のように、接続により受信できる人を限定することはできません。
無線は、誰でも、受信(傍受)することができます。
誰でもデータが受信できる状態というのは非常に危険な状態です。
暗号化をしていないデータは、誰でも容易に覗き見ることができます。
もし、社内の秘密情報や、顧客の個人情報など漏洩してしまうと、
損害賠償請求を受ける可能性があります。
もちろん、データを暗号化すれば、簡単に覗き見ることができません。
しかし、暗号化は、時間をかければ解読できてしまいます。
どのように情報漏洩のリスクを回避する考えておく必要があります。
業務用Wifiルータは、通信接続の安定性だけではなく、
高度な暗号化技術により、セキュリティを確保することができます。
業務用Wifiルータには無い機能
普通のWifiルータにはあるけど、業務用ルータに無い機能があります。
キッズタイマーや省電力設定はない
業務用ルータには、高速かつ安定した無線回線と、
高度なセキュリティが求められます。
業務用のWifiルータに、キッズタイマや省電力設定といった
便利な機能の多くは、搭載されていません。
なぜなら、特定の人が、特定の時間帯に通信できない
といった運用をすることがないからです。
それゆえ、キッズタイマや省電力設定といった
家庭での使用を想定した機能の多くは搭載されていません。
そんなのソフトウェアを作り込めば、すぐに対応できるぢゃないという
ご意見もあるかと思いますが、残念ながらそうではありません。
ソフトウェアを製作することは簡単なのですが、
安定して動作させるには、徹底的に動作試験をしなくてはなりません。
私の経験では、ソフトウェア製作に掛かった時間の数倍の時間を掛けて
動作試験をしないと、想定外の不具合を多発させます。
しかも、徹底的に動作試験をしても、不具合が出てしまいます。
特定の条件下における不具合は、なかなか見つけにくいものです。
不具合による影響が大きければ、無償改修が必要な場合もあります。
メーカとしては、余計なソフトウェア製作はリスクでしかありません。
そのため、このような機能を搭載している業務用のWifiルータは少数派です。
家庭向けと業務用の両方を製作しているメーカでは、
キッズタイマ等の機能を搭載している場合があるようです。
業務用のWifiルータをどうしても使いたい人は、
自分に必要な機能は何かを、きちんと考えて選んだ方が良いでしょう。
(おまけ)業務用ルータの活路
インタフェース変換を目的として使われることがなくなったルータは、
今では、VPN(Virtual Private Network)で利用される事が多くなりました。
VPNは、イントラネットと呼ばれる社内ネットワークを
仮想的に作り上げるものです。
公衆網であるインターネットを伝送させますが、
データを暗号化して秘匿性を保ち、タグをつけて伝送することで、
インターネットを通る他のデータに紛れ込まないようにします。
VPN機能を持ったルータは、VPNルータと呼ばれます。
VPNルータは、ソフトウェアでVPNのすべての機能を実現するので、
それなりの性能を持ったハードウェアが必要となります。
業務用ルータは、VPNルータとして、
データの暗号化に特化して生き残っています。
最後に、読者の皆さまのお子様の成長を心よりお祈り申し上げます。
どうしようもないとき、このページを参考に通信制限を掛けてください。
今後も、皆様のお役に立てる情報を発信していきます。