この記事は、WiFiルータを作っている製造メーカにフォーカスして、通信制限を深く掘り下げていこうという企画です。今回リサーチするのはNEC Atermです。
皆さんは、自宅でWiFiルータを使っていますか。大手通信キャリアのギガ使い放題プランが普及してきたといっても、家族全員がスマホを使っている場合、WiFiルータがないと毎月の通信費が、かなりの金額になります。
また、自宅が通信キャリアの電波を受けにくい環境であるなら、快適にスマホを使うために、WiFiルータを購入する必要があります。WiFiルータの通信速度にフォーカスして説明している記事は多くあると思いますが、ありふれたブログを書く気など、私は全くありません(笑)。NECが世の中に提供してきたWiFiルータ製品を調査すると、斬新な通信制限機能を発表し、そして、こっそりと廃止(!)した数多くの機能があるようです。
機能淘汰が多いメーカです
機能の追加は良いのですが、廃止するのはよろしくありません。普通の人は、廃止された機能があるなんて気が付かないですよね。というわけで、今回はWiFiルータの製造メーカであるNECのAtermシリーズのちょっとマニアな深堀りをしたいと思います。
記事のポイント
- NECの歴史と特長を知る
- WiFiルータの搭載機能を分析する
- 製品の特長や機能から弱点をさぐる
- 他社と比較し優れた点を説明する
製品開発の歴史
NEC Atermシリーズは、現在NECプラットフォームズ(株)という会社が製造販売しています。うちのWR9500Nの取扱説明書では、製造元はNECアクセステクニカ(株)です。まずはメーカの生い立ちから調べました。
メーカの生い立ち
NECアクセステクニカ(株)は、元々は静岡日本電気(株)という会社でした。テレビ、ポケベル、FAX、携帯電話、PHSといった家庭用の通信機器をメインにしていたようです。NECアクセステクニカ(株)から、NECグループの数社と経営統合し、NECプラットフォームズ(株)に社名が変わりました。

事業規模はトップクラス
現在、Atermシリーズは、NECプラットフォームズ(株)(旧:NECアクセステクニカ(株))で開発・製造しています。さらに、業務用ルータやスイッチであるUNIVERGEシリーズも同社のホームページに掲載されています。
のんびり理系おじさんの若い頃、NECと言えば、PC-8801やPC-9801シリーズというパソコンを作っている会社というイメージが強かったです。現在もパソコンは作っていますが、同時に、NECは国内有数の通信機器メーカでもあります。NECのネットワーク機器の事業規模は、富士通やNTTデータに並びます。
NECプラットフォームズ(株)の事業内容は、「ICTシステム機器の開発、製造、販売、設置、保守およびシステムソリューション」となっており、通信・ネットワーク機器、POS、サーバなどのハードウェア製品の開発を担当しています。
製品開発の強み
Atermシリーズには、NECグループ内で技術交流により、業務用ルータUNIVERGEの技術が投入されています。私がルータを開発する部署にいた頃、関西のメーカから「一緒にルータを作りませんか?」とお声が掛かったと聞いたことがあります。その会社の開発チームは、50名とか100名という単位でした。
製品開発には、膨大な時間と費用がかかります。共同開発した方が、開発効率は良くなります。残念ながら、私が所属していた開発チームは、共同開発を選択しませんでしたが、グループ会社や系列会社であれば、開発チームを交流させる事はメリットが大きいです。
技術交流のメリットは開発効率だけではありません。例えば、技術ノウハウの交流、ユーザニーズの掘り起こし、セキュリティホール情報などは、WiFiルータを利用するユーザにとっては重要なことです。WiFiルータを購入後も、ファームウェアのアップデートで、セキュリティホールに対応してもらえることは安心感が違います。
開発力と技術力
共同開発することは、時間や費用、アフターサービス以外にもメリットがあります。プロが使うルータ機能の一部が、一般家庭向け製品に搭載されることです。例えば、パケットフィルター(アクセスリスト)は、業務用のファイアウォールやルータに実装される機能です。多くのAtermシリーズにはパケットフィルター搭載されています。ガチでネットワーク機器を作っているから、差別化を図るために家庭用のWiFiルータにプロ用の機能を搭載しているのでしょう。
家庭用のネットワーク機器しか作っていない会社の場合、ゼロからこの機能を作らねばなりません。そういった会社の場合、開発費を抑制し、最低限の機能を載せて安く売りたいと思うでしょう。でも、技術者的には、この機能を搭載しないとルータとは呼べない!といった譲れない部分があります。私は、IPアドレスで制限をするパケットフィルタ(アクセスリスト)を搭載していないルータに違和感を感じます。
IPアドレスの制限をしたい!
製品の特長
業務での使用も視野に入れて開発された正統派ルータなので、自宅だけではなく、小売店や小規模オフィスでの使用にも相性が良いです。パケットフィルタ、MACアドレスフィルタなど業務用ルータで使う機能は、すべて実装され不満はありません。小売店や小規模オフィスなどで利用する事考えているので、無指向性アンテナが組み組み込んだ本体を天井などに設置することで、幅広い平面をカバーできるような筐体形状をしています。
一方で、他社にあるような無指向性アンテナの方向を変えるような機能はなく、左右ではなく、上下方向の電波を強くするといった使い方はできません。とはいえ、そんな場面で使用する機会は少ないでしょう。想定される使用環境の多くは、アンテナの方向を変える必要はありません。アンテナ方向を変えないことが、安定した通信状況につながります。
制限機能の歴史
NECプラットフォームズ(株)は、インターネットの黎明期から、AtermシリーズのWiFiルータを供給してきました。新たな製品を市場に投入するたびに、新たな通信制限機能が追加されました。そして、いくつかの制御機能は消えていきました。その歴史を時系列で示したのが次の表です。

パケットフィルタのみ、一貫して実装されています。ルータと名乗るからには、レイヤ3の通信制限は外せないメーカ技術者の強い意志を感じます。また、WiFiルータに使用される組込CPUのタイマーの数が限られます。省電力設定「WiFiスケジュール」やゲストSSID「ネットワーク分離機能」と、キッズタイマー「こども安心ネットタイマー」は、タイマーの取り合いになっていたようです。最近の製品からは、「WiFiスケジュール」や「ネットワーク分離機能」が無くなっています。
これらの結果から、2014年~2016年ごろに発売されたWiFiルータが、通信制限機能が最も充実していたという結果でした。そのうえで、各機能について深掘りしていきましょう。
MACアドレスフィルタ
MACアドレスフィルタは、許可型の「MACアドレスフィルタリング」と、拒否型の「見えて安心ネット」の2種類があります。基本、どちらか一方しか使用することができません。キッズタイマー「こども安心ネットタイマー」使用時は、「見えて安心ネット」しか使うことができません。
許可型とは、登録したMACアドレスを持つ端末のみ接続を許可します。拒否型とは、登録したMACアドレスを持つ端末のみ接続を拒否します。古くからあったMACアドレスフィルタ機能は許可型です。

なぜ、古くから許可型が普及していたかというと、許可型は、端末未登録の状態(デフォルト状態)において、未登録の端末は接続できないからです。拒否型は、未登録端末が接続できてしまうため、悪意のある端末を排除することができず、セキュリティに難があります。キッズタイマー「こども安心ネットタイマー」は、拒否型の「見えて安心ネット」にスケジュール管理を追加したものです。許可型の「MACアドレスフィルタリング」とは相性が良くありません。
そのため、IEEE802.11ax対応のAtermシリーズから、許可型の「MACアドレスフィルタリング」がなくなり本当に残念です!
| 製品名 | 規格 | 許可型 | 拒否型 |
| WX11000T12 | Wi-Fi 6e | ○ | × |
| WX7800T8 | Wi-Fi 6 | ○ | × |
| WX6000HP | Wi-Fi 6 | ○ | × |
| WX5400T6 | Wi-Fi 6e | ○ | × |
| WX5400HP | Wi-Fi 6 | ○ | × |
| WX4200D5 | Wi-Fi 6 | ○ | × |
| WX3600HP | Wi-Fi 6 | ○ | ○ |
| WX3000HP2 | Wi-Fi 6 | ○ | ○ |
| WX3000HP | Wi-Fi 6 | ○ | ○ |
| WX1500HP | Wi-Fi 6 | ○ | ○ |
Atermシリーズの許可型MACアドレスフィルター機能名は「MACアドレスフィルタリング」です。拒否型MACアドレスフィルター機能名は「見えて安心ネット」です。

出展:Aterm WX3000HP2 MACアドレスフィルタリング機能
キッズタイマー
主に幼稚園から小学校低学年の通信制限するのに有効な通信制限が、キッズタイマー「こども安心ネットタイマー」です。拒否型のMACアドレスフィルタにスケジュール機能を追加したもので、登録したMACアドレスを持つ端末の通信を制限します。一方で、登録していないMACアドレスを持つ端末は一切の制限を受けません。つまり、登録されていないMACアドレスを持つ端末は、SSIDとパスワードさえ知っていれば、誰でも自由に接続できます。
最近のスマホのMACアドレスは、プライバシーの保護を目的に、一定の期間でMACアドレスが変わってしまいます。もちろん、端末が持つ固有のMACアドレスに固定することは可能なのですが、容易にMACアドレスが可変する設定に戻すことができるため、キッズタイマーは、スマホの通信制限には使えないと考えておくべきです。
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ゲストSSID
Atermシリーズに採用されていた期間が2年間と短いのですが、「ネットワーク分離機能」にタイマーを持たせていた時期がありました。ネットワークを分離してタイマーを動作させる機能は、ゲストSSIDです。一方で、タイマーがないと繋がったままになるので、通信制限になりません。現在の「ネットワーク分離機能」は、残念ながらタイマーがありません。そのため、現在のAtermシリーズには、ゲストSSIDがありません。
ゲストSSIDは、根強い人気がある通信制限です。友達(ゲスト)用に、一時的にSSIDを開放するという使い方をします。もちろん、ずっと開放したままだと、セキュリティに問題が出るので、一定時間経過すると、そのSSIDを使えなくします。NEC Atermシリーズで、ゲストSSIDが搭載されたWiFiルータは、2014~2016年の発売された、以下の製品に限られています。
(私が調べた範囲なので、これ以外にも搭載している製品があるかも知れません)
| 製品名 | 規格 |
| WG2600HP2 | Wi-Fi 5 |
| WG2200HP | Wi-Fi 5 |
| WF1200HP2 | Wi-Fi 5 |
| WG2600HP | Wi-Fi 5 |
| WG1800HP2 | Wi-Fi 5 |
| WF1200HP | Wi-Fi 5 |
パケットフィルタ
リサーチした過去10年間、ほとんどのAtermシリーズにパケットフィルタ機能が搭載されていました。さすが、多くのネットワーク機器を製造販売しているメーカです。
もちろん、機能を搭載していただけではなく、Atermシリーズのパケットフィルタには特徴があります。IPアドレスとポート番号を範囲で指定できるのです。パケットフィルタを搭載したWiFiルータが少ない中、業務用ネットワーク機器と同じ範囲指定が設定ができることに強みがあります。
なぜ、範囲指定できるのが凄いのか。それは実際にパケットフィルタ機能を使用したときに分かります。例えば通信制限したいものが動画配信サーバであった場合、サーバは数百~数万台にもなります。
これらを1台1台設定していたらキリがありません。範囲指定すれば、一行で複数のサーバを通信制限することができます。パケットフィルタで範囲指定ができるAtermシリーズは最強です!ネットワーク屋さんは、通信制限にパケットフィルタ(業務用だとアクセスリストと呼ぶ事が多い)を多用しますが、一般の人は、パケットフィルタを使うことはないようです。業務での実績が少ない他社さんは、パケットフィルタの範囲指定に必要性を感じていないのでしょう。どうやって使うか、気になる人は下記の例を参考にしてください。
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【ルータ応用】パケットフィルタで動画非表示にするおすすめの設定を調べて公開してみた
この記事では、WiFiルータのパケットフィルター初心者に、動画を非表示にする方法を説明をしたものです。レジェンドWiFiルータのDNSルーティングでインターネット通信制限を失敗した人が、スマホアプリに ...
なお、Atermシリーズのいくつかの製品は、範囲指定ができません。Atermらしくない、パケットフィルタで範囲指定ができない以下の製品はお勧めしません。
WR8165N-ST、WG1200HS、WG1200HP、WF800HP、WF300HP2
(私が調べた範囲なので、これ以外にも搭載している製品があるかも知れません)
DNSルーティング
Youtube.comや、www.yahoo.co.jpといったURL文字列をIPアドレスに変換するサーバをDNSと呼び、URL文字列ごとにDNSを指定するのがDNSルーティングです。本来は、実際に存在するDNSを指定するのが正しい使い方ですが、接続させたくないURLに、存在しないDNSを指定することで、意図的にWeb接続ができないよう通信制限をDNSルーティングで行います。
この機能のメリットは、URL文字列で指定できるので設定が感覚的でわかりやすく、多くの人に受け入れられることです。デメリットは、Webブラウザ以外の制限をすることができません。つまり、スマホなどで専用のアプリケーションから接続したときは、期待する通信制限ができません。
この機能は、インターネットの世界がIPv4からIPv6に移行した2016年頃にAtermシリーズに搭載されなくなってしまいました。DNSルーティングを使用するには、WiFiルータをIPv4モードで動作にする必要があり、IPv6の通信速度が期待できません。それがボトルネックになり、IPv4の終焉とともにDNSルーティングは、廃止されています。
しかし、多くの企業の社内ネットワークでは、IPv4が使用されています。社内ネットワークをIPv6に移行できた企業は、多くはありません。IPv6は、通信速度が向上するのですが、通信制限の面ではアドレス桁数が多く、とても不便であるため、通信制限にIPv6は使われていません。こんな状況ですから、もう少しDNSルーティングは残して欲しかったですね。
省電力設定
WiFiを使用しない時間帯に無線を止めてしまう通信制限です。電波自体が飛んでいないので、通信制限としては強力です。MACアドレスやIPアドレスによる制限とは違い、確実に通信制限できます。
キッズタイマやゲストSSIDといった通信制限が実装される前から存在するタイマーを使った通信制限ですが、設定グループがコロコロ変わるので、機能が実装されているか探すのに苦労します。
| 時 期 | 設定グループ | 設定名名称 |
| ~2013年頃 | ECOモード設定 | ECOモード設定 |
| ~2016年頃 | WiFi設定 | WiFiスケジュール設定 |
| ~2020年頃 | WiFi(無線LAN)設定 | WiFiスケジュール設定 |
これは、省電力設定の通信制限が、無線を出す、無線を出さないかというISO参照モデルではレイヤ1の物理層での制御であるからです。「通信制限」といっても制限には、様々なアプローチがあります。詳しく知りたい方は、下記の記事を参考にしてください。
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【子育てコラム】WiFiルータに求める性能とインターネット利用の制限機能について考えてみた
この記事では、子どもの健全な成長をサポートするために必要なWiFiルータの性能、規格やセキュリティ、通信制限機能について説明することで、WiFiルータ選びの悩みを解消します。 のんびり理系おじさんのバ ...
最新のAtermシリーズは、省電力設定「WiFiスケジュール設定」は廃止されています。
キッズタイマーには、未登録のMACアドレスは通信制限できないという問題があるので、省電力設定が選択できるようにして残して欲しかったですね。
まとめ
どうでしたか? Atermは、色々な通信制限ができることが分かりましたね。また、優れた機能が様々な理由で廃止されたことも分かると思います。ちょっと残念にも感じるところもあるのですが、やっぱり、多くの人がNEC Atermを選ぶのが良く分かります。
NEC Atermシリーズの特徴をまとめておきます。
ポイント
- NEC Atermシリーズは、安定性重視の正統派のWiFiルータ
- 通信制限は実績を基にした実用的な機能を搭載
- パケットフィルタ性能は、NEC Atermが最も優秀
- 最近の製品は機能廃止により通信制限機能が減っている
- 中学生以降には中古のAtermによる通信制限を勧める
オススメする売れ筋WiFiルータの性能や機能、価格帯は次のとおりです。
| WX5400T6 | WX4200D5 | WX3600HP | WX3000HP2 | |
| 無線の規格 | Wi-Fi 6e (11ax) | Wi-Fi 6 (11ax) | Wi-Fi 6 (11ax) | Wi-Fi 6 (11ax) |
| 6GHz | 2402 Mbps | - | - | - |
| 5GHz | 2402 Mbps | 3603 Mbps | 2402 Mbps | 2402 Mbps |
| 2.4GHz | 574 Mbps | 574 Mbps | 1147 Mbps | 574 Mbps |
| 有線WAN | 1Gbps ×1 | 1Gbps ×1 | 2.5Gbps ×1 | 1Gbps ×1 |
| 有線LAN | 1Gbps ×4 | 1Gbps ×4 | 1Gbps ×4 | 1Gbps ×4 |
| アンテナ方式 | 内蔵アンテナ | 内蔵アンテナ | 内蔵アンテナ | 内蔵アンテナ |
| 6GHz | 2×2 | - | - | - |
| 5GHz | 2×2 | 3×3 | 4×4 | 2×2 |
| 2.4GHz | 2×2 | 2×2 | 4×4 | 2×2 |
| キッズタイマー | ○:あり | ○:あり | ○:あり | ○:あり |
| MACアドレスフィルタ | △:拒否型 | △:拒否型 | ○:許可/拒否 | ○:許可/拒否 |
| ゲストSSID | ×:なし | ×:なし | ×:なし | ×:なし |
| 省電力設定 | ×:なし | ×:なし | ×:なし | ×:なし |
| パケットフィルタ | ◎:範囲指定可 | ◎:範囲指定可 | ◎:範囲指定可 | ◎:範囲指定可 |
| 価格帯 | 19,000円 | 16,000円 | 13,000円 | 11,000円 |
| オススメ度 |
最後に、読者の皆さまのお子様の成長を心よりお祈り申し上げます。どうしようもないとき、このページを参考に通信制限を掛けてください。今後も、皆様のお役に立てる情報を発信していきます。

